思い出十二か月−待宵ぐさ 八月−

待宵草

 

  待宵ぐさ

夕べのもやがおりてきて

むらさきいろの山ぎわに

黄色い月ののぼるころ

土手をほのかに染めるのは

待宵(まつよい)ぐさの花だった

 

夢二の描いたたおやめは

その日も土手の草の上

たもとかさねてなよなよと

もろこしの葉をふく風に

ふかいまつ毛をふせていた

 

ことばもかけず手もふれず

思い出だけを夕やみに

のこして消えたあの人は

今もどこかに生きてやら

待宵ぐさがまたさいた

 

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