思い出十二か月−恐れ二題 三月−
山伏
山伏
しずかな村の午(ひる)さがり
不意に吼(ほ)えだす法螺貝(ほらがい)の
けもののような鳴き声に
おびえて逃げた家の中
戸のすきまからうかがえば
頭巾(ずきん)、負摺(おいずる)、錫杖(しゃくじょう)の
眼をいからせた山伏が
又法螺貝を吹きたてて
呪文となえる恐ろしさ
あやつり人形
大道芸の傀儡師(くぐつし)が
まわす人形もこわかった
眉毛の太い悪党が
眼玉をむいて睨(にら)むとき
斬られた首にひくひくと
赤い小布(こぎれ)が動くとき
母の袂(たもと)にくるまって
息をころしたあのころの
こどもごころのはるけさよ