思い出十二か月−さくら貝−

桜貝

 

 七つのとしのお正月

 お炬燵(こた)の中で聞かされた

 お祖母(うばの遠い思い出が

 折にふれてはよみがえる

 

 その時お祖母が出してきた

 あかい椿の花手筥(はなてばこ)

 開ければ散ろう桃色の

 小爪(おづめ)のような貝いくつ

 

 これはお祖母が若いころ

 お祖父(じじ)とふたり住吉の

 浜で拾うさくら貝

 見やれ色さえそのままに

 

 疾()うに死別(わか)れた()合いを

 思い出してか出さずてか

 お祖母は眼鏡すり上げて

 またしみじみと見入ってた

 

 小爪のようなさくら貝

 

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