山口白陽の川柳2005.4.19更新
一.
旅慣れのいきなり雑誌出して読み
火を借りて口火もつける席隣り
順不同前に書かれたのがひがみ
喧嘩して乗ってどちらも立っている
龍と名をつけたは親の欲もあり
喧嘩して乗ればみんなに席があり
譲り合って乗ればどちらも席がなし
ストリップ煙草の灰が長くなり
向うから社長がやってくる廊下
ゼニ持っていたのが悪い社会面
「猛犬に注意」が家を嗤(わら)わせる
むつかしい顔が歯科医の門を出る
広告も読んでしまった待合所
死傷者がタッタ五人で小さく組み
ぜいたくな家を他人が建てている
湯上りのあご膝にのせ爪を剪(き)り
あれ並みはイヤと吉川紫綬を蹴り ※吉川英治紫綬褒章辞退
くだもの屋欲を映した大鏡
月末が近いおかずになってくる
ボーナスにされた愛想に反り返り
鋤焼(すきやき)にもつつましくない女房
経文のてんで分らぬ有難さ
つくろうと思って出来た子でもなし
裏門は余計持つほど這入りよし
アイロンをかけたついでに家を焼き
二
親切の仕甲斐をやはり気にかける
薬屋のいっち効くのは手製なり
果物屋鏡に映すだけは欲
禁酒日をその後に決める松の内
満員バス借りてる奴と向ひ合い
竜年の生れ巳年をないがしろ
老人会よくよく見れば元なじみ
龍ぶって海老ものけぞる辰の春
下手な絵に非売品とは書きも書き
終点が近くてあいた席にかけ
減税と家に私は票(い)れました
ともかくも当選すればあとはあと
邪気のない親切受けぬ憎らしさ